ねむりびと  

 夜な夜なの筆/舌を揺らし、
 みずからの開け/艶めきを冴え渡る冬気へと
 うっすり突き出しながら、
 肉質の赤い頽〔くず〕れのなかへと
 呑み込まれてゆく上下の脣

 手弱女の退〔さじ〕りまた吸着のアリメントを味わい
 わたしは食べる/無限を/忘却の土の無味を食む

 齧る蚕のように/葉切虫〔オトシブミ〕のように
 緑紙の寝具折り曲げ閉ざされる書物のように
 合歓木〔ねむのき〕のように左右を合わせ、
 密着/分離を通じて触れ止まる
 そのからだのうえで固く
 はりつめるわたしの肌合いが
 斜視のようにずれ/崩れ滑ってゆく。

   *  *  *

 あなたのシュプスタンス
 ねむりびとよ、
 わたしはあなたの大理石裸体の
 微かな呼吸〔いき〕の振盪に白い瘧りをうつされ、
 帯びる微熱のかたちとなるわたしを窺う

 わたしのアプストリュクシオン
 不可能な脱自〔エクスターズ〕の恍惚
 中空に一瞬むすぶかにみえる想像物の放心
 離れ・発たれたかにみえるわたしの抽象
 まだあなたを抱こうとするわたしの残像を
 あなたの空虚な陰部のまうえに翳そうとして。

 わたしのエンデュミオン
 わたしはあなたを(永遠の夜?)昏睡に溺れさせる
 黒い月光を惑う閨〔ねや〕の窓
 あなたを纏う蒼い繃帯のようにあなたを濡らす、
 あなたを触る/蝕むように、溢れるあなたを。

   *  *  *

 わたしは凝視める/消えるわたしを。
 あなたは在る、拡がるように
 白い浜のようにあなたを広げる

 わたしは青く引潮する
 この撤退、後ろ向きの贈与
 でも、わたしは何も与えない、残らない。

 あなたは現れる
 氷河のように底翳〔そこひ〕のように
 わたしを遮り、わたしから裸けられる
 耀く象牙色の肉体を横たえる眠りのうえにねむる
 まぶたのように顔を隠して。

 あなたを凝視めながら
 わたしは消える。

 あなたの白い盲いを広げながら、
 あなたに屈むわたしの姿は
 皮膚の鏡に射さないまま、
 その手前を空けてわたしは間遠になる

 癒える傷のように翳〔かす〕まなければならない。

 その痕〔あと〕の文字を炙り出すいつかには、
 あなたがわたしという愛撫の蒸発を
 あなたじしんのからだのかたちのように触れ、
 繰り返すだろう、あなたじしんの手で。

 手が空しさを摑むように
 わたしはあなたのうわべから消える
 消される。
 あなたの美肌〔びき〕に届くために。