天風姤(てんぷうこう)
姤は、女壯〔さか〕んなり。女〔つま〕を取〔めと〕るに用うる勿れ。
彖に曰く、姤は遇なり。柔、剛に遇うなり。
女を取るに用うる勿れとは、与〔とも〕に長かるべからざればなり。
天地は相遇し、品物咸〔ことごと〕く章〔あき〕らかなり。
剛の中正に遇うは、天下の大いに行わるるなり。
姤の時義、大いなるかな。
象に曰く、天下に風有るは姤なり。后〔きみ〕以て命を施し四方に誥〔つ〕ぐ。
                      (『易経』第四十四卦「姤」)


11月17日は、やがて詩人ノヴァーリス(Novalis)となる失意の哲学青年フリードリヒ・フォン・ハルデンベルクがその運命の恋人ゾフィー・フォン・キューンと運命の邂逅を果たした日(1794年)である。
そしてまた、『高い城の男』(1962年)を書いた作家フィリップ・K・ディックの書斎の金庫が、侵入した何者かによって爆破された日(1971年)でもある。

まさにこれこそディックにとって、「聖なる侵入」であった。
あるいはまた、ことによればディックは意図的に自宅の金庫を爆破するという秘密工作を演出したのかもしれない。

この事件をきっかけにして、ディックの人生、いや、彼の現実は狂っていく。やがて彼は、古代グノーシス主義の叡智を彼に授ける不思議な神性VALISの顕現に遭遇する。
有名な、1974年(ノヴァーリスとゾフィーの運命の遭遇のあった年の数字の並べ替えだ)のピンクの光線。そして、あの不可思議な形而上自伝SF小説『VALIS』(1981)が書かれた。

『VALIS』には、ソフィアという名の五歳の女の子が出てくる。
五番目の救世主。或いはまたV番目のアリス(Alice)。
叡智の神VALISの啓示をもたらしながら、その命は短い。
レーザー光線の事故で彼女は死ぬ。
ハギア・ソフィア(聖なる叡智)、それは夭折したノヴァーリスの恋人ゾフィーと全く同じ名前であった。

ディックはVALISとはVast Active Living Intelligence System(巨大にして能動的な生ける情報システム)の略だという。
だが、そうではない。
それはむしろVALISではない。NO-VALISだ。

ディックの金庫を襲った超新星爆発(NOVA)において、
本当に顕現した者は何だったのか?
それはむしろ詩人ノヴァーリスと少女ゾフィーの運命の反復ではなかったか。

ともあれ、この日、神は誕生したのである。
「わずか15分間が僕の運命を決定した」(ノヴァーリス)といわれる神が。

だから11月17日は、神の誕生日なのである。

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